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高松高等裁判所 昭和48年(け)1号 決定 1973年3月07日

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議申立の要旨は、高松高等裁判所第三部は、申立人がさきに上訴権回復請求と同時に昭和四七年一二月八日付でした最高裁判所宛の特別抗告の申立を、昭和四八年一月一二日付決定で棄却したが、およそ、高等裁判所は、その受理した特別抗告の申立を、理由があるとして決定の更正をするならともかく、理由がないと認めるときは、意見書を添えてこれを最高裁判所に送付しなければならないのであって、右特別抗告の適否を自ら審査して申立棄却の決定をすることはできないのであり、従って、本件特別抗告棄却の決定は、高等裁判所がその権限をはずれてした違法な裁判であるから、その取消を求めるため、刑訴法四二八条二項、三項前段に則って異議の申立をする、というのである。

よって、検討するに、まず、関係記録によってその経緯を調べてみると、申立人は当庁高松高等裁判所第三部に係属する昭和四五年(う)第一四四号殺人、殺人未遂被告事件の被告人として高松刑務所に在監する者であるが、右被告事件の昭和四七年一一月一四日の公判において、同裁判所が、検察官の請求した書証(被告人の精神鑑定をするための資料として提出した「勾留中の被告人の動静について」と題する書面等)の証拠調の決定をしたところ、これに対し、申立人(被告人)から同月一七日付書面で証拠調に関する異議の申立があって、同裁判所は、同月二八日右異議の申立を棄却する旨決定し、右決定は同月二九日申立人に送達されたが、これに対して、更に、申立人から、刑訴法四三三条二項の期間(五日)を超える同年一二月八日、同裁判所に対し同条一項による特別抗告の申立書と右特別抗告の上訴権の回復を求める趣旨の「上訴権回復願い」と題する書面が提出されたので、同裁判所は同月一二日右上訴権回復請求を棄却する旨決定し、その後更に、同法四二八条二項による異議の申立があって、同裁判所第一部が同月二六日右異議の申立を棄却し、右上訴権回復請求棄却決定は昭和四八年一月五日確定するに至ったので、同裁判所第三部は、上訴権回復請求と同時になされた前記特別抗告の申立を、昭和四八年一月一二日に期間経過後の不適法な申立であるとして申立棄却の決定をしたことが明らかである。

そこで、所論について考察するに、なるほど、刑訴法第三編「上訴」、第四章「抗告」の中には、原裁判所が、抗告を理由ありと認めてその決定を更正する場合のほか、自ら抗告申立期間の徒過等を審査して上訴権の消滅を理由に抗告を棄却することができる旨の規定は存在しない。しかしながら、本件特別抗告の申立は、前記のとおり、抗告申立期間を経過したために上訴権回復請求と同時にしたものであり、刑訴法第三編「上訴」、第一章「通則」の上訴権回復請求に関する諸規定(同法三六二条ないし三六五条)、なかんずく同法三六二条、三六三条二項、三六四条によれば、上訴権回復の請求は、原裁判所に対して上訴の申立と同時にしなければならないとともに、その請求に対する裁判は決定をもって原裁判所がすることになっているのであって、右制度の仕組からすると、回復を求める上訴の申立は、手続上上訴権回復請求と表裏一体の関係にあると同時に、その成否は一に上訴権回復請求に対する原裁判所の当否の判断にかかっているものということができる。そして、この場合、上訴の申立は、上訴権の回復を許す決定があってはじめて有効となるのであって、逆に、右上訴権回復請求が不適式あるいは理由なしとして棄却された場合は、当然上訴裁判所が本案ともいうべき上訴申立の適否、理由の有無について審査、判断する余地は全くなくなるのであり、(従って、明文の定めがある控訴、上告については、原裁判所が、右請求棄却決定の確定を待たないで同時に、刑訴法三七五条、四一四条により上訴棄却の決定をすることができる筋合であり、また、その確定を待って別個に右上訴棄却決定をするのも誤りではない。)、従って、明文の定めのない抗告申立(すなわち、申立期間の定めがある即時抗告、高等裁判所における異議の申立、特別抗告)についても、もはや申立書を上訴裁判所に送付して改めて抗告不許の判断を求めるのは迂遠であるばかりでなく、何らの実益もないのであり、かつ、その手続を省くことが、上訴権回復請求を棄却される抗告人の利益を害することにはいささかもならないのである。してみると、同じ上訴編の中で、控訴、上告については、上訴権消滅後であることが明らかな上訴の申立を原裁判所が決定で棄却することができる旨の前記規定があって、抗告にはその旨の規定がないけれども、上訴権回復請求に伴う期間の定めのある抗告の申立(前記即時抗告、異議申立、特別抗告)に限っては、控訴、上告に関する刑訴法三七五条、四一四条を類推適用して、右抗告申立が明らかに上訴権消滅後になされたものであることを理由に、原裁判所が自ら棄却することができるものと解するのが相当である。

原決定は、申立人の本件特別抗告を棄却するにあたり、「刑訴法三七五条、四一四条により主文のとおり決定する。」と判示しているが、この判文は、右に説示した趣旨においてその準拠法条を掲記したものと解すべきであり、右原決定に、所論のような法律上の根拠なくして権限外の裁判をした違法はないことになるから、結局本件異議の申立は理由がない。

よって、刑訴法四二八条二項、三項、四二六条一項後段を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木原繁季 裁判官 深田源次 山口茂一)

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